君へ


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君は”努力”し、大会に、勝負に挑み、時間と金を費やした。
そしてその時間とお金と割の合わない結果を見た日、僕のことを”失敗”と呼んだ。
それから何度も同じことが繰り返され、そんな日々も今ではもう遠くなった。

今君は一人、僕を見つめている。
”努力は報われる”
”努力は裏切らない”
”夢は必ず叶う”
そう思い、見ていた嘗ての僕を今見詰めては何かを言って欲しそうな顔をしている。

僕は君に伝えたいことがある。
僕は君の慰めではない。
僕は君の”努力”の交換品でもなければ、表彰台への保証でも、名声への近道でもない。
僕は君があの日、なりたいと思ったものなんだよ。

早く、美しく、力強く、でも軽やかなもの。
余りにも見事で、誰にでも出来るほど簡単に見えたもの。
真似た君の膝小僧を傷つけ、描き書き上げようと何枚もの紙を重ねては、捨てさせたもの。
それでも、君を起こしては、また挑ませたもの。
君が”夢中”という言葉さえ知らない頃に、その本当の意味を見出させたもの。

君のそばに居て、ずっと見てきた僕には君がどれほど辛いのか判るよ。
でもね、努力とは唯の通り道なんだよ。
誰もが通る必要があるだけのことで、それ以上でも、それ以下でもない。
そして結果というものが努力という父と、運・時勢という母の子供で、どちらに似ているのか、また本当に彼らの子なのかさえ、僕は知らない。

こんな事を聞いて、君はもう何も思わないかもしれない。
もう、当に終わった事だとしか思わないかもしれない。
でも、僕はもう一度、君に立ち上がって欲しいんだ。

再び全力を尽くし、それでも叶わない時、君はもう一度だけ僕を見るだろう。
そして、それが君と僕とのお別れの時だよ。

君はもう僕を見ない。
新しく見出した地の果てに目を凝らし、そこに行くにはどうすべきか夢中で考える筈だよ。
あの日、君に憧れを植えたものを見た時のように。

僕はそんな君を見たい。
きっと僕はそんな君を見るために生まれたのだと思うよ。
そう、僕はただの通り道でしかないんだよ。

君があの日、”失敗”と呼んだものが、これから続く幾千幾万の歩の一つだと思う時、僕は遠くから君を見ているよ。
嘗ての君のように、憧れを胸に君を見ている。
そして、僕の前をふと横切る子ども達に見せてあげるんだ。

早く、美しく、力強く、でも軽やかなに君が一歩一歩進むのを。
余りにも見事で、誰にでも出来るほど簡単に見えるように進む君を。

それを見ては憧れる子供達の側に立っているよ、君の時のように。
君を思いながら。

 

じゃあ、その日までさよなら。
でも、忘れないで欲しい。
僕はいつもそこに立っていることを。
君がどんなであとうとも、僕はそこに立ち、待っているのを。